土木学会誌1月号モニター回答

今月の表紙 古市公威、フランス留学時代の図面

 先人たちの努力のあとが伺える表紙だと感じました。明治から大正・昭和初期にかけての構造物には機能性だけでなく独自のデザイン性が生かされていたという話をよく耳にしますし、実際そのように感じます。対して、現在のデザインは...。「ものをつくる」ということについて改めて考えさせられました。また、[編集長のコラム]の「新温故知新(あらためて,ふるきをたずねて,あたらしきをしる)」とも一致した表紙だと思いました。
(建設省土木研究所 林 昌弘)

 評者の専門である建築関係の雑誌で,建築の図面(ドローイング)が雑誌の表紙を飾ることはよくある。一般に建築の世界では,建築ドローイング自体を一個の独立した作品として扱う傾向があり,たとえば美術館で建築ドローイングが展示される機会も少なくない。
 しかし,土木の図面が,作品として独立して扱われるということはあまり聞かない。土木図面の表記でも,構造物の輪郭線を強調したり,彩色ほどこしたりすることはあまりないのではないか。
 ところが,土木学会の機関誌たる『土木学会誌』が土木ドローイングを表紙に据えている。しかもこの「近代日本土木技師の図面による表現」を年間シリーズでとりあげるという。土木関係の雑誌で,図面が表紙を飾ったり,過去の事象をシリーズでとりあげたりすることは,画期的なことなのではないか。
 シリーズ第一回目を飾るのが古市公威のドローイングであることも心憎い。日本の土木界の発展に寄与し,男爵の爵位を得た古市が,図面技法にも精通していたことはよく知られている。その闊達ぶりは同時代の工部大学造家学科(後の建築学科)の学生,辰野金吾らの図面と比較してみればよくわかる。図面は,決して即物的な構造図ではなく,美しく彩色され,レタリングをふくめた構図にもゆるぎがない。これほどの製図技法を会得した古市が,留学後,直接図面を引く機会はほとんどなかったのだという。時代が彼に土木官僚として日本の土木界を主導することを求めたのであろう。
 土木界では古市以後,どちらかといえば,かなり即物的な,数理的な解析を旨とした図面が引かれるようになっていったのだという。御雇い外国人の時代を経て,日本人技術者が台頭し始める1890年代頃には,すでに土木図面は数理的解析を重んじた図面表現になっていると,国立科学博物館の清水慶一氏は指摘している(『日本の建築・土木ドローイングの世界』大成建設刊)。
 いずれにしても,建築の歴史・意匠の世界に身をおくものとして,普段あまりお目にかかれない土木のドローイングを毎号みられる企画は興味深い。できれば表紙解説をもうすこし詳しくしていただきたいところであるが,そこまでは望みすぎであろうか。
(文化庁文化財保護部建造物課 田中禎彦)

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