土木学会誌1月号モニター回答

特集 阪神大震災からの教訓21世紀に何を引き継ぐか

 それそれの進歩がわかりやすく書かれていて、大変面白かった。5年が経過していささか風化し始めた大震災を、我々読者に「忘れた頃に」再認識させる意味は大変大きいと思った。ただ欲を言えば、各識者がそれぞれの分野を記述するという形態よりは、集まってそれぞれの問題点について話し合うという特集が読みたかった。研究・開発が急速に進んでいる今、必要とされているのはそれぞれの分野の協力・交流なのではないだろうか。
(北海道開発コンサルタント(株) 田中雄太)

 阪神大震災から5年の歳月が経過したが、震災発生直後の状況は陰ることなく、未だ多くの人の脳裏に残っているであろう.にもかかわらず、人々の災害に対する認識は急速に衰えているように感じる。しかし、道路や鉄道、その他ライフライン等に求められるのは、やはり「壊れない」、「安全である」であろう。それらが人命を奪う凶器となっては絶対にいけない。
 土木界は社会基盤を提供するものとして、震災によって得たもの・学んだものを真摯に捉え、地震国日本での安全な街作りに貢献していかねばならない。
(鹿島建設(株) 加藤康生)

 土木の専門家でない自分にとっては、ちょっと重たい内容だった。完全な消化不良です。
(九州大学大学院 龍 崇)

 土木工学を学んだ者にとって、5年前の出来事は自然の力の恐ろしさを痛感すると共に、何を私たちが知っていたのかという素朴な疑問を持たざるを得なかった。これまで、幾多の災害がおこり、その都度我々は新たに技術を身につけてきた。阪神大震災からも同様である。ただし、これから得られる技術は、記事にあったように新たな安全神話を作り出すのではない。
 安全神話は、技術の限界を述べることなく優れた面だけを示し、ユーザーである市民が盲目的に信じることである。そのため、これからの技術者は技術に対するアカウンタビリティが求められる。そして市民側も知る責任があるだろう。
 阪神大震災の復興にあたり、現場ではフェニックス計画策定など大変な苦労があったこと思う。新たな街づくりを行っていくにあたり、耐震という視点で技術者と市民の間でどのようなキャッチボールがなされたのか知りたかった。
(外務省 酒井浩二)

 さすがに土木工学の高い水準を見ることができた.総合的には,亀田弘行教授の書かれているように,「現代の耐震技術に支えられた施設はよく頑張ったといえる」が,「近代耐震技術の恩恵を受けていない膨大なストックを抱える都市の脆弱さ」と「危機管理システムの欠如」,「情報システムの欠如」など課題が提起されたことはよく理解できた.その他の著者による議論も,それぞれ教訓にとむものだったが,私自身の興味としては,「交通システムの問題点」,「震災直後の対応および情報の問題点」,「都市マネジメントの総合能力とリスクマネジメントとしての都市防災」などソフト面に絞られた.
 もうひとつ,最近問題になっているのは,山陽新幹線のトンネルなどのように,施工,運用面において,設計者が想定しなかったような小さなミスや手抜きがあって,それが大きな事故につながる可能性だろう.
(大阪府立大学農学部 夏原由博)

 震災から5年を経て、時期を得た特集であると考える。全体として問題点、対策、課題と幅広い視点から編集されており読み応えのある記事となった。土木分野と少し離れるが、地震予知に関する内容も在っても良かったのではないかと思われる。
(松江高専 高田龍一)

 阪神大震災は、社会に大きな衝撃を与え、我々建設業に携わるものを震撼させた。わが国においては、現在に至るまで幾多の震災を受けたことで耐震技術はめまぐるしく変遷し、確実な歩みを実行してきたという自信があったからである。
 ことの他、コンクリート構造物の問題点については、「コンクリートが危ないU」(小林 一輔著)に示される実証データが物語るコンクリートの劣化と、施工不良の問題をも考え合わせると、土木技術者としての責任ある行動を痛感する限りです。
((株)熊谷組 坂部光彦)

 阪神大震災では、地下構造のみならず社会構造の「断面」までもが、我々の前に示されました。新たな千年紀を迎えるにあたり、その教訓がいかに土木分野でとらえられているか、を示すタイムリーな企画でした。
 「社会も含めた耐震技術」の「体系的な提言」の必要性を説く、という意図で編集され、その構成も「学び」、「生み出し」、「引き継ぐ」というそれぞれのテーマごとに系統立てられたものですが、項目によっては、各テーマに1カ月分を割り当ててもいいような内容の「濃い」ものもありました。(ある意味では、各項目のスペースが限定され、やや消化不足・掘り下げ不足にならざるを得ないところもありました。)
 さらに議論を深めていけば、単なる復旧・復興(再建・再開発も含む)にとどまらない、より高い次元の「災害軽減を考慮した社会システム」創生を目指した「総合的なエンジニアリング」としてもまとめられる可能性もあった企画だったのではないでしょうか。
(通信機メーカー勤務  長屋勝博)

 阪神、淡路大震災の惨状は、5年を経過したいまでも記憶に新しい。そして昨年、トルコと台湾における相次ぐ大地震は、われわれに自然災害の脅威を繰り返し警鐘している。そうしたなかで、阪神大震災を契機に、何を学び、何を生み出し、何を引き継ぐかを視点にし、各分野の専門家による本特集は、興味深いものであった。特に、復旧時における技術に関するふたつの報告は参考になった。しかし、全体に、何かひとつ心を捉えるインパクトがなかった。予期できない自然災害に対して、土木技術者に期待される、被災者の側にたった技術、知恵、課題の提言が欲しかった。人の命の大切さがみえないのが残念であった。
(電源開発 喜多村雄一)

 多くの記事が網羅的に集められていて読んでいて面白かった反面、それぞれの記事の口調がひどく違っていて違和感があった。内容によっては仕方のないがあるのだろうが、ある程度の統一が図られるとひとまとまりの特集としての意義が高まったのではないだろうか。
(小松工業高校土木科 根石修)

 この地震によって多数の尊い人命と国民の財産が失われてしまったが、一方で地震、耐震といった分野で得られた知見はかけがえがないものであり、防災分野で大きな進歩が得られたことは疑いがない。しかし、一般に得られた知見は論文や専門書となり、知らず知らずのうちに設計要領やマニュアルとなって、この分野の専門家以外の一般土木技術者や国民が目にすることはあまりない。この観点から見ると、今回の特集は最近の特集のなかでももっとも優れたものと思われる。
 この特集は、何より構成がいい。総論から始まって、知見、成果、21世紀へ引き継ぐものとなっており、各記事は土木技術者として一読すべき有益な記事ばかりであった。
 なかでも、片山恒雄氏の「ものが壊れて人を殺す」は耐震設計に携わっている技術者に決して忘れてはならないことを二つ提示している。一つは耐震設計の究極の目標は何か、ということである。それは安全性や経済性ではない。さらにその奥にあるもの、それは愛する人を地震で亡くさないために耐震設計をするということである。実はこの言葉、約15年前に免震構造を採用した筑波にある奥村組研究所を見学した際に、説明者が使った言葉であるが、片山氏の記事を読んで思い出した。もうひとつはもちろん、氏の正直な心情吐露、技術過信への戒めである。
(北海道開発局 池田憲二)

 阪神大震災から、我々は何を学び、何を生み出したのかというテーマの基、様々な立場や視点からその意義を見つめ直すという本特集は、大変興味深く読ませて頂きました。特に、阪神大震災で失ったものも多い反面、逆にこれを機に生み出されてものも数多くあることが紹介されており、大いに感銘を受けました。
(新日本製鐵(株) 佐野陽一)

 人々の目は、えてして新しいものに目を向けがちであるが、震災から5年を経た今、問題点、教訓等をまとめた今回の特集は、とても有意義な特集であると思う。震災から5年を経てもなお、未整備の問題があるが、当事者ではなかった一般市民にとっては、関心を失いつつあるのではないでしょうか。また、あの震災が人々の教訓にならずに、5年前の悲惨な出来事で終わってしまっている部分があるのではないでしょうか。
 その一因には、これまで震災を取り上げたマスメディアの報道が、震災の悲惨さのみを取り上げるという点に終始していた事にもあったのではないかと思う。今後の教訓となるようなこのような特集を土木技術者の中だけでなく社会に発信できないのでしょうか。
(住友建設 水野克彦)

 この震災を体験した者として、この特集は興味深かく読ませていただいた。21世紀に引き継ぐべきかとうたった以上、総括の意味も持つ筈の記事であろう。そうだとすれば、地震被害と地下水帯の賦存の関係に誰も触れていないことには、納得がいかない。液状化現象を扱った記事がある以上、地下水に造詣深い執筆者もいる。液状化予測地図と実際の起こった液状化区域の差など、地質の分布でみた地下水帯と実際の分布は同一ではないという考えは、反省としてあってよい。
 地震による被害の大きさは、発生する地震エネルギーの大きさのみならず、地点間の伝播効率に依存しそうなことは、素人でも(だからこそ)予想できる。そして、岩盤・地盤学に加えて、地下水帯の連続性や分布状況も関わっていそうだとうい推論は正しそうだし、これに関する論文は、ここ数年間に限っても多く見られている。卑少な例では、雑誌サイアス(2000年1月号)にすら掲載された。
 この視点に対する批判の立場からでもよいが、総括的な意味をこの特集に求める読者から見れば、無視するのは許されない。
(伊戸川環境総合企画 伊戸川善郎)

 災害ボランティアの項目までも入れたのは、正解だったと思います。とてもおもしろく読ませていただきました。土木は、人のためのものですから。
 次回は、直接災害復旧に携わった人たちが現実になにをし、どうしたかったのかの生の声の特集もお願いしたいと思いました。
( 山晃測量設計 三村幸正 )

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