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土木に対する心理学や脳科学の応用について
近年の土木業界は、バブル崩壊後の国家財政の遍迫、都市部における社会資本の蓄積による飽和充実感、公共事業の汚職の表面化等によって、国民の意識の中で、社会資本整備への財政出動のあり方に厳しい批判の目が向けられる状態となっている。
しかし、その一方で産業に乏しい地方部では、高速道路網の早期実現、財政出動による地域産業の活性化、観光資源開発による街おこし等、社会資本整備に対する期待がまだまだ大きいのが現実である。 そこで必要とされることは、地域性に見合った社会資本整備と財政出動のあり方である、多くの関係者が思うところでしょう。
しかし、将来的には既存の土木技術のみに頼った社会資本整備では、国民生活の質の向上や国または地方の経済発展を合理的に図ることが難しい時代に入ると考えられます。
私は土木屋の傍ら、若い時代から心理学と脳科学という、心に科学的に探求する分野を勉強してきております。心理学、脳科学と一口に言いましても、多くの専門に分かれ、その専門分野がそれぞれ密接に関連しております。そのなかで私が主に勉強している分野は脳科学方面で、まだまだ勉強不足の感がありますが、概略以下のことは言えます。
日本のどのような事業においても、より合理的に事業を押し進めるためには、心理学と脳科学の知識が必要不可欠であると言うことです。
なぜなら、国民生活の向上と日本の経済発展のためには、社会資本整備がもたらす生活の利便性や機能性という大きな効果以外に、人が何を求めているのかを知る必要があるからです。私の立場からすると、この学問は、土木分野では道路計画、交通計画、都市計画、環境アセスメント、シピックデザイン等のソフト面、公園設計、モニュメントの設計、街おこしのための地域観光資源開発や産業開発等のハード面に応用できる要素を多く含んでいると思います。
土木分野でも近年、心理学や脳科学よりいち早く、情報工学の応用による効率化が進められ、特に効果を上げておりますが、これからだけでは不十分であると考えます。街おこしを例にとれば、地方では国からの補助金を基に、観光資源開発やふるさと事業などのための社会資本整備を行なってきているが、採算性の面でゆき詰まり、失敗に終わった話をよく聞きます。これでは、国家財政投与が効率的な結果を生んだことにはなりません。
ここで、事業として採算がとれない要因としてあげられるものに、万民に共通した心理欲求を理解していないことが考えられます。
私の考察によると、生物である人には自己防衛本能や生理的欲求に起因する欲求以外に以下の無意識の欲求が存在すると考えられます。
1. 苦悩から遠ざかり、快感へ向かおうとし、苦痛の反復は避け、快感は継続反復させようとする欲求
2. 身の安全が確保された環境における変化を求める欲求
3. 自己存在認識確認の欲求
これらの欲求が何に起因するかというと、生物が生きるための本能欲求が根底にあり、それが、生物の進化を可能にし、人に至っては創造する行為を通じて、人間社会が発展してきた大きな要因の一つでもあると言えます。なぜ、そのような欲求が生物に存在するのかという専門的なことは字数の都合上避けますが、土木分野で応用できる心理欲求として、主として以上の1と2の欲求があげられます。
先ほどの街おこしに関していえば、観光資源開発や街おこしのために特産品や観光施設を造っても、一度で飽きる要素を持ったものを造っては、採算がとれないということがいえます。
飽きるということは、生物にとって苦痛が快楽かに大別すれば、苦痛を感じることに分類できます。逆に、適当な変化や複雑性に富んだものや美しいと感じるものは、快感を感じることに分類できます。当然、人間も古い生物時代の脳を未だに機能させ生きることを可能にしており、飽きるという苦痛に近づこうとする衝動は生じにくいと言えます。また、観光などを楽しむ人の心理は、日頃のストレスから開放され、思考の領域を離れて楽しみたいという無意識が根底にあるのが一般的と言えます。
これは何を意味するかといえば、少数回の利用で飽きてしまう観光施設や特産品は需要の反復が少ないということです。そうなると結果的に、施設を利用する人数の持続的な減少、街おこし産業の不活性化につながるばかりではなく、国家財政の無駄使いにもなりうることになります。
では、この場合どのような観光施設や特産品を造ればよいのか、その鍵は、観光施設であれば変化に富む楽しさの要素を持つもの、安らぎの要素をもつもの、他にない魅力的なもの、特産品であれば、おいしく飽きないもの、品質に優れた他地域にないもの等を造ればよいことになります。
近年、自然環境に対する関心の高まりやストレス社会を反映して、やすらぎという快感を重視した計画、設計が行なわれている傾向にあると私は感じます。
今後は、自然や地域性を生かすと同時に、飽きづらい、奥の深さを持った変化による快感という要素を持ったものを造ることも必要であると考えます。
ここで、ただやみくもにそのような手法を取り入れることがよいかと言えば一概にそうとは言えません。
概略でいえば、自然が少なく、ストレスの大きな都市部では、やすらぎによる快感の要素を重視した事業計画や設計を行い、地方部では変化に富む快感の要素を重視した事業計画や設計を行なうことが適切であろうと考えます。
このように、街おこし一つとってみても、心理学や脳科学の応用が期待できます。
(東建工営 高橋英幸)
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