土木学会誌8号モニター回答
特集 応用力学の深淵

 応用力学が土木工学の基礎体力であることを悟ったのは恥ずかしながら就職してからである。大学在学中は、特に興味のない科目に対しては単位を取るためのテクニックに走ってしまった。そのため、就職してから苦労する羽目になった。今考えると、大学在学中に応用力学の魅力や将来の有益性を感じなかったのが原因と思われる。今回のような特集にもう少し早く出会えれば、と思ったのは私だけであろうか。
(五洋建設(株) 水流正人)

 応用力学を広い範囲でとらえてあり勉強になりました。ただ残念なのが、学術的な記事が多く、もっと身近かな疑問に対する記事も掲載してほしかったなと感じました。記事のとおり、計算機の発達で計算力学が便利なものとなっているのは事実ですが、反面中身がブラックボックス化し、モデル化、境界条件、解析結果の判断に悩むケースも同時に従来より増えているように感じます。次回はそういった面からの記事もお願いします。
(水資源開発公団 塚本 守)

 物理学,数学の歴史やN−S方程式の誕生の過程など,学問色の強い読み物で大変興味深かった.頭がパンクしないよう配慮された説明がとっつきにくさを解消し,工学における数学・物理の重要さを改めて実感させてくれた.しかし,応用力学のカバーする領域の広さを示すあまり,何が応用力学かが不鮮明になり,最終的に計算力学と応用力学が同義であるかのように感じてしまった.数値解析が応用力学の発展に深く寄与していることはよく分るが, 100年先の応用力学の学問体系を考えたとき,数値解析の適用事例もさることながら,理論物理学への貢献についての記述も読みたかった.
(東京工業大学 渡邊学歩)

 応用力学・数学がそれぞれの分野でどのように使われてきたか解説され、また今後の展開も示唆された。新しいツールの獲得という面から興味深く読ませていただいた。ツールを限定して、適用に当たっての考え方・概念を中心に解説したものもあれば、現在注目されているモデルを紹介したものなど、筆者によって様々であった。企画趣旨にも書かれてあるように、応用力学は土木工学の基礎体力の一つと位置づけているので、各執筆者が今までの研究活動の中で「最も役に立った」、あるいは「これは勉強しておくとよい」と思われる応用力学・数学の専門書も紹介してもらうとよかった。
(長野工業高等専門学校 柳沢吉保)

 コンピュータの高性能化が進んでいる現在では,人間は入力作業だけして,複雑な計算・解析はコンピュータが処理する。その複雑な解析の中身を理解していない私のような技術者は,コンピュータの結果がもしプログラムのミスなどで誤った結果を出しても気付かない。これではまずいとわかっていながらもやっぱり力学は難しい。他人任せで,出来れば避けて通りたい。そう思うのは私だけでしょうか。
(本州四国連絡橋公団 高木 久)

 内容の詳細な部分に関しては、一度ではとても理解し難いものであるが、情報革命の到来とこれからの土木技術の関係を感じ取ることができた。性能規定への移行に伴い、未知の現象(これまで経験的、職人的に処理してきた分野)に対する論理性の追求がなければ、合理的な設計は自信をもって提案できないであろうと思う。また、今後はこれらの個々のツールを総合的にシステムとして組立てていくことが必要ではないだろうか。
(ジオスター株式会社 田中 秀樹)

 本特集を通して、これまで難解で取っ付き難い物と自ら遠ざけていた、広く深い応用力学の世界を、少しだけであるが垣間見られたような気がする。中でも、「応用数学のエッセンス」は、応用数学と力学の関係が分かり易く解説されており、興味深く読ませて頂いた。学生時代にこの関係を知っていたら、もう少し楽しく勉強できたのでは・・・、等と感じた。業務の中で力学に出会うことは非常に多い。これからは、「力学的推論」と「数学的推論」、この二つをキーワードに力学に取り組んでみようと思う。
(住友建設(株) 松元香保里)

 応用力学は難しい。でも面白そうな世界であると認識を改めた。土木工学に限らず社会システム、金融工学まで応用力学分野の最前線で何が起きているのかを広く見渡すことができる特集である。サイエンスとは違った意味で何か新しい発見がありそうな「深淵」を覗く眼鏡として、このような特集は有意義であった。しかし、応用工学は「基礎体力の一つ」であり、覗くだけで終わらずに体得し充実させることが必要である。講習や体験ソフトの企画にも期待したい。後は自身の努力にかかっている。
(新日本製鐵(株) 藤井康盛)

 多岐の分野にわたる応用力学を様々な切り口から記事にされていて、非常に興味深く読むことができた。土木工学において応用力学の手法が最も使われるのは、実現象のモデル化の過程であろう。非常に幅広い体系をもつ応用力学と、学際的な学問である土木工学との結びつきを垣間見ることができ、有用な特集だった。
(東京大学 糸山豊)

 近年,第二次世界大戦後に築いた社会資本ストックの老朽化が進み,多額の維持管理費がかかる状況になっている.今後,公共投資規模が縮小される中で,社会資本ストックの維持管理を効率的に行い,有効利用することが必要となっている.
 維持管理へのファイナンス工学の導入は,リスクマネージメントという統一的な視点からアプローチすることが可能となる有益な手法であると感じた.
(住友建設(株) 高橋直樹)

 応用力学という小難しそうな内容でありながら、そのエッセンスから各分野での最新状況まで、大変興味深く読める特集であった。私の周りの学会員の声としても、とてもおもしろいと今回の特集は評判がよかった。特集の中の一文に勉強の動機は「必要性」、「向上心」、「優越感」あるいは「好奇心」であるが、どこから出発しても最終的に好奇心にたどりつくのが健全な態度であるという言葉があった。今回の特集は好奇心を刺激される特集であったと思う。今後もこのような好奇心を刺激されるような特集をどんどん組んでいただきたい。
(大成建設 古池章紀)

 今回の特集は、大変素晴らしく、学会のかなりの人たちにも大変参考になるものと思 われる。社会周辺での力学の必要性と応用における役割や力学の展開等に至るまで大 変理解しやすい形でまとめられている。われわれのような水工学を専門とするものに とっても、流れの可視化の先駆者でもあるレオナルド・ダ・ヴィンチの話が紹介さ れ、歴史的業績を振り返るとともに今後の研究発展に参考にすることができる。今回 の特集がそのまま応用力学概論のテキストになるようにも思う。物理系に人気のない 受験生や若者に向けては,内容や文章をもう少しやさしくし、図もマンガチックなも のを増やし、世界に誇れるような構造物の写真等を加えて本の形にするのも一つでは ないかと思う。土木工学における力学の面白さを理解し、そこから生まれるはずのロ マンを夢見る新しい技術者がドンドン出てくることを期待する。
(福山大学 梅田眞三郎)

 今回の特集では、応用力学の理論そのものばかりでなく、応用力学やその周辺分野がどのように発展してきたかという歴史的な背景もあり、最初に身構えたよりは楽しく読み進められた。応用力学を道具として使いこなす場合の有効性はもちろんであるが、応用力学そのものを楽しむという側面もあり、バランスのとれた記事構成になっていたと思う。学際的である土木工学の分野にこそ応用力学を発展させ、使いこなす力があるはず、という特集記事の主張が、全体として強く感じられた。
 また、記事の内容の深さ、求められる専門性、視点などが様々であるから、多くの人がそれぞれに興味ある記事を見つけられただろう。だからこそ逆に、自分がもしもモニターという立場でなければ、きっと全部を読み通さなかったと思う。
(京都精華大学 角野有香)

 内容的に専門的で難しい内容であるせいか、現実の土木技術の将来の延長という観点からはかけ離れていたような気がします。
(建設省土木研究所 中野清人)

 今回の特集は、これも応用力学というのかと驚くほど、実に幅広い分野において深化し、発展している研究の第一線について、現状や可能性について勉強する良い機会を与えてもらった。構造工学、水工学、地盤工学、コンクリート工学、そして社会システム工学の5領域をしっかりと支えている応用力学(土木工学の基礎体力としての応用力学の概念図が分かりやすい)の重要性を再認識し、今後の技術研究の取り組みを進めていきたい。
(開発土木研究所 梅沢信敏)

 充分な内容の特集で、小生などはまさに「深淵」を見せつけられた感があります。「計算力学のエッセンス」「計算力学のツール」「地殻変動の計測とシミュレーション」などの記事を未消化ながら読んでみると、数値モデルを共有して、複数の研究者や技術者がそれぞれ得意な技術を用いてあるプロジェクトを実用可能な理想的なものに作り上げていく、コンピュータの世界ではリナックスが著名ですが、この特集の先にコンカレントエンジニアリングの土木学会的試みもあるように感じました。一方、最近の記事中の多くに「土木技術者は社会学その他の広い知見や技術を合わせ持つことが必要だ」という指摘がみられます。そんなことから、土木分野全体が、マクロエンジニアリング的な取組みにも遅れているように感じていました。取り扱うものが巨大であると、かえってマクロ的には扱いにくいような、皮肉な側面があったように思うのですが、応用力学的に俯瞰すると、この取組みも大きく進められそうに感じられます。こうしたことから、難しすぎる内容が多かったにせよ、土木分野の幾つかの発展方向を明確に指し示した特集として、意義深いと思います。

(伊戸川環境総合企画 伊戸川善郎) 
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