土木学会誌10月号モニター回答
マーシャル諸島共和国
『自分たちの手で、自分達のために造っているのだ。だから、ベストを尽くして、よいものを造ろう』。技術移転としてローカルへやる気を促すために発したこの言葉は、社会資本整備に携わる関係者にとっては基本中の基本だが、とても新鮮に感じた。何故だろうか?
おそらく『手づくり』といった感覚が欠けているからだと思う。現在の建設事業は、全般的に時間に追われて量をこなすといった感覚になってはいないだろうか。戦前の建設事業にはビッグプロジェクトが多かったように思われるが、材料、機械、人手などが不足していた中、見事な出来映えの構造物が多い。職人気質の技術者が知恵を絞って心を込めて造り上げたに違いない。心を込めて造られたものは美しく長持ちするはずだ。
掘削時のスコップからバックホウへ、コンクリート打設時の竹からバイブレータへ、といった機械化が『手づくり』をなくした主要因ではない。技術基準・マニュアルや解析ソフトの充実といったところに弊害が生じてきているような気がする。勿論、これらは既往技術の集大成であり、それを活かさない手はない。しかし、マニュアルや解析ソフトは万能ではない。過去の事例が当てはまらない場合も多い。さらに、設計・施工分離の弊害も挙げられる。設計者はどれだけ施工を理解し、逆に施工者はどれだけ設計を理解して業務を進めているのだろうか。フィードバックは適切になされているのだろうか。
景気の低迷が長期化し、市場も縮小しているこんな時期だからこそ、一つ一つの社会資本を手づくりで、心を込めて、知恵を絞りだしていくべきだ。場合によっては、マニュアルから離れてゼロクリアする勇気も必要だ。計画・設計段階から施工段階まで気持ちを一つにして実施していく。そうすることによって、後世に誇れるモノとなっていくのではないだろうか。
(五洋建設(株)水流正人)
記事中の、「この道路はマーシャルの人々が自分たちの手で、自分たちの手で造っているのだ。そしてこれは末永くマーシャル人と共に残る。だから、ベストを尽くして、良いものを造ろう。」という言葉は、技術者としての倫理観が取り沙汰されている現在の日本にも通じるものと感じた。忘れかけているものを思い出させてくれる記事であった。
(住友建設(株) 松元香保里)
海外における日本企業の活躍の様子がわかりよかった。
(大阪大学文学部 岡田保恵)
「文明による翻弄」の節の、自暴自棄の若者や自殺者が急増しているという記事を読んで、石弘之著『地球環境報告2』に紹介されていた、死に急ぐインディアンの若者たちの話を思い出した。自然環境、社会環境が先進文明によって急速に変化させられていくことによる重大な影響について、私たちは先進国の一員としてきちんと受け止めなければならないと改めて思う。
マジュロの道路工事現場で遊んでいた子供達のその後も気になる。道路は、本当にマーシャルの人達のためになるのだろうか。特に未来ある若者や子供達にとって、道路がどのような意味を持つのか。文化の多様性と価値観について、もう一度じっくり考え直してみたいと考えさせられるリポートだった。
(京都精華大学 角野有香)
この筆者が,ワーカーに話した言葉が非常に印象深かった。現在ある日本の土木構造物に同じような想いが込められているのか。一つでも多くの構造物にこの想いが込められていることを期待するのは私だけでしょうか?
(本州四国連絡橋公団 高木 久)
マーシャル諸島の美しい自然、温和な人柄、悲しい過去…。これらのコトについては多少ですが存じていました。しかし、自殺者の急増、事故多発などの社会問題については、恥ずかしながら全く存じておりませんでした。ここまでの記事は思慮深く読ませて頂きましたが、ここから急に「マジュロ道路工事」の話に移った展開とその内容には多少驚きと疑問を感じました。自殺者の増加理由が急激な社会変化、それに付随した環境、文化の崩壊などに因っているのではないかと筆者自ら語っていらっしゃるのに、実際行った道路工事はマーシャルの未来のためになる素晴らしい産物だと解釈されるのは身勝手ではないでしょうか。確かに現地の人と協力し合い、近代化の波へ乗り遅れさせないように指南したことはある意味、大きな成果であるかもしれません。しかし、これは先進国の大きなエゴであり、現地の人が望んだことなのでしょうか。そうではないかも、と思ったからこそ、自殺者増加の例を近代化の波に起因するものとして挙げたのではないでしょうか。そこの繋がりがどうしても理解できません。ヒヨッコ学生の分際でこのような意見を述べたことをお許し下さい。
(東京工業大学 ワタナベトモキ)
美しい景色の写真とともに,日本による占領など諸外国による影響を受けてきた歴史や自給経済から貨幣経済への変換による諸問題など,非常に興味深く読ませていただいた.
海水温度の変化や地球温暖化などの地球環境問題は,今後太平洋の小さな島国にとって,死活問題となってくるであろう.国際的に地球環境問題に取り組み始めているが,マーシャル諸島共和国などの国々にとって,手遅れにならないよう早急に対策を講じていく必要があるのではないかと改めて感じた.
(運輸省港湾技術研究所 森屋陽一)
←戻る
Copyright 1996-2000 Journal of the Society of Civil Engineers