土木学会誌1月号モニター回答
事故・災害 谷川岳の鉄砲水について
この事故は「必要な情報」と「心の準備」が不足していたところに数々の悪条件が重なった悲劇であった。この場合における「必要な情報」とはどこにどのような雨が降って速やかに流出が発生するといった情報であり、「心の準備」とはこの地域ではしばしば鉄砲水(ここでは“ねこまくり”)があり、瞬時にどの程度の水位上昇が起こり得るので注意を要するといったある種の“覚悟”である。
すなわち提供される「必要な情報」を速やかに入手し、経験や知識と入手した「必要な情報」に基づく「心の準備」があってこそ、いざというときに適切な行動をとることができるのであり、「必要な情報」が不足していたり、誤っていたりしていればパニックを生じさせ、「心の準備」が不足していれば間違った行動を生む。
ただ、全てが仮定の情報では「心の準備」は身につきにくい。今回の記事のように実際に発生した事故・災害をきちんと把握しておくことが貴重な「心の準備」となることは間違いない。
(建設技術研究所 米山 賢)
話の展開が非常に明快で分かりやすかった。谷川岳でおきた災害の概要からはじめ、鉄砲水の成因に関する説明が続き、その説明の妥当性を分かりやすいモデルで検証するという流れが小見出しを見るだけでも伝わってくる。そのため、多少専門的な単語が出てきても私のような専門外の人間にもよく理解でき、平易な説明ながらも専門家の方がこの災害をどのように見たのかについて触れることができる気がした。生物学や物理学などの最新の研究成果を紹介する記事は多々みられるが、土木工学に関してもこのような記事が増えれば、単に今どのようなプロジェクトや研究が進行中なのかを伝えるだけでなく、事にあたる土木技術者の考え方も含めてよりよく社会に伝えることができるのではないかと感じた。
(東京工業大学 木本和志)
毎年,夏になると風物詩であるかのように,河川での水害の報告がなされる.そのたびに,自然の恐ろしさとともに人間の力の無さ,思慮の無さを思い知らされる気がする.自然に立ち向かうことの難しさに茫漠とした思いを避けられない.この記事では,まったくの偶然が重なったといわれる災害を実験・解析を元に説明を加えようとしている.その試みは非常に興味深く,科学の本質にのっとっていると考えられる.しかしながら,結局のところ,災害報告と実験・解析という二面性が独立して存在し,確固たる対処法にまで話が至っていないように感じられた.さらに両者の関連付けがなされるとより興味深い内容になったのではないだろうか.
(東京大学 小島昌太郎)
登山が好きで谷川岳にも幾度か訪れたことがある私にとって,この事故には以前から高い関心を寄せていた.記事を読んで,今回の事故は「予測が難しい上流の局部的な雷雨による小規模な鉄砲水」,「登山道の迂回」といった幾つかの不幸が重なった事故だと知り,改めて自然災害の恐ろしさを思い知らされた.記事でも述べられているとおり,今後このような事故を起こさないためにも,情報の積極的公開といったソフト的対応策の充実に期待したい.
(東京大学 竹上浩史)
ここで紹介された鉄砲水による災害に限らず、地形が急峻で雨が多い日本では水による被害が多く発生している。これら災害を未然に防ぐために、これまで多くの研究や実験が行われ、ある程度発生を予測する技術も確立されてきている思いますが、地盤状況や水の流れを100%把握することは不可能に近いのではないでしょうか。危険な地域と推測されるところに対しては、継続的な観測と災害防止システムの確立などソフト面の対応をより充実させる事が重要と思う。
(熊谷組 蓮池康志)
昨年8月に谷川岳で発生した鉄砲水被災についてはまだ記憶に新しい。本報告により、当被災が、急激な出水による河川水位の上昇や、被害者が現場の地理に不慣れであったことなど、いくつかの偶然の重なりで発生した悲劇であったことが改めて理解できる。さらに本報告は、観光客にとって本当に危険となる小規模鉄砲水の成因について細な検証を行っており、水理実験による出水伝搬過程の再現は,力学的な観点からも非常に興味深い。鉄砲水による災害を未然に防ぐため、こうした成果が、被災発生の予測や、避難誘導など逸早い対応方法の確立に生かされることを願う。
(五洋建設 中山晋一)
自然災害の検証は防災上の観点から是非とも入手したい事項でした。
(日本道路公団 吉村 保)
鉄砲水の成因が分かりやすく説明してあり、急峻な地形状況の山間部において、ある程度の流域面積を持つ沢ならば、このような鉄砲水の発生する可能性が十分にあるということを認識した。
近年、山地部の道路構築に伴い、捨土を利用した沢部の造成が行われている例を目にする。これらの行為が、河道勾配の大きな箇所への人の進入を許し、流出係数の増大を招くことになることを十分に理解し、計画を行う必要があると考える。
(オリエンタルコンサルタンツ 木村和夫)
この日はちょうど休日で、見るともなしにつけていたテレビから「事故のニュース」のテロップが流れたのがこの第一報でした。この夜の報道、翌日の新聞記事からも現地の事情は詳細に分かりませんので、どうして雨の降らないのに事故につながったのかということは、多分『局地的な雷雨であろう』と思っただけで、徹底追求に至らないまま忘れるともなく忘れていました。これまで川とのかかわりの多い仕事を経験してきた者として、慙愧に耐えない次第で、日常から疑問をそのまま放置しておくのは余り好きでない私としては、例外に属することでもありました。今月号のこの記事は、限られたデータと言う不利な条件にもかかわらず、この小規模鉄砲水に対する水工学的成因分析を検証されており、大変判り易く興味深く読ませてもらいました。Kinematic weve現象についても貯水ダムおける初期放流時において、河道形状、残流を含めた流量など条件が整った時に段波が生ずることは、実態を体験的に承知していましたが、改めて再認識させられました。
(エイトコンサルタント 石井憲郎)
普通「学会誌」は内輪の研究論文を掲載するもので、部外者の読みづらいものである。そうした中、本誌は紹介や解説が主体であるので門外漢にも読める。標記の災害報告は、事故の概要から原因の解明を要領よくまとめてあり、「土木学会」会員以外の一般の人にも読んでもらう必要のあるものである。こうした災害は、ハードな構造物で防げるものではなく、川から出るというソフトな対応策が必要だとする著者のお二方に両手をあげて賛成するものである。
(愛媛大学 高橋治郎)
記事中で使用されている気象レーダー雨量は、山間部など気象観測施設の少ない地域にとって、非常に有益だと思われます。このようなケーススタディーをすることと、気象レーダーによる常時監視が鉄砲水災害を減らすキーワードとなることをあらためて認識することができると思います。今後もこのような解析を進めて頂き、広く公表して頂くことが必要だと思います。
(日本気象 大橋鉄弥)
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