2022年10月号 会長からのメッセージ


日本建築学会と土木学会との協働


上田 多門 土木学会第110代 会長

土木と建築という分野は、分野外の人にとっては何が異なるのか正確にはなかなか言えない分野でありながら、教育・研究分野、業界、官庁関連部署としては明確に区分されている。日本建築学会は1886年創立であるから、それ以来両者は明確に区分されてきたことになる。
建築も土木もそれが範ちゅうとする分野は広く、日本建築学会の論文集は構造系(材料・施工を含む)、計画系、環境系と大区分され、土木学会の論文集も構造系、水系、地盤系、計画系、材料系、施工系、環境系などに区分されている。どちらも社会科学的要素も含んだ総合学問である。区分の名称からも明らかなように、材料・施工を含んだ広い意味での構造系、計画系、環境系は、両学会で共通している。例えば、私の専門分野では日本コンクリート工学会が存在し、土木と建築両分野の専門家が共に活動しているが、土木学会と日本建築学会の中でも、個別にコンクリート分野の専門家が委員会活動をしている。総合学問領域という共通性、学問領域の一部が共通しているという点、この2点が土木学会と日本建築学会の特徴と言える。
2021年11月に両学会の間で交わした覚書により、両学会が公に共同で行う活動を実施することになり、共同タスクフォース(TF)が立ち上がった。元々、類似した課題を持っている両学会であるが、定常的にかつ公にそれらの課題に対し共同して活動する仕組みを持っていなかった。両学会の専門家からなるTFの中では活発な議論が交わされ、活動対象となる課題が決まった。協働することに対する両学会員の意識調査、土木・建築の社会価値と協働の方向性検討、災害対応連携、カーボンニュートラル対応、デジタルトランスフォーメーション(DX)、土木・建築の設計の基本作成の六つの課題に対しWGが設置された。これらの課題は、土木・建築分野の中の共通する専門分野の学会(日本コンクリート工学会のような学会)で対応し切れる課題ではなく、また、両学会が個別に対応するのでは不十分あるいは困難な課題とも言えよう。近年多発する水害、地盤災害といった自然災害は、その現象解明は土木分野であるが、被害を受けるのは土木・建築双方の構造物であり、都市などを含む地域である。災害対応連携はまさに総合学問である土木と建築とが協働して初めて可能なのである。DXの中では、IT技術としては同一のCIMとBIMとが土木・建築で個別に展開されつつあるが、土木・建築施設が一体となるような場合、CIMとBIMとが整合が取れている方が都合が良いのは自明である。

写真1 札幌の街並み
上記に示した課題は土木・建築を超えた社会的にも重要な課題であり、社会に見える形で成果が出されれば、国内的には他の工学分野と比較して地盤沈下が見られ、国際的にはその研究成果・技術開発で地盤沈下が見られる土木・建築分野の救済策ともなることが期待される。協働の成果を社会に積極的に示すために、土木学会としての情報発信に加え、両学会誌の共同企画も定期的に行っていくことが予定されている。ご意見などを土木学会(https://committees.jsce.or.jp/chair/)に寄せていただければ幸いである。
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会