会長からのメッセージ


土木研究者がグローバルな視点を増強させる必要性がある日本


上田 多門 土木学会 第110代 会長

これまでの会長からのメッセージにおいて、次のようなことを述べてきた。日本は土木技術の海外展開をODAを主体に行ってきたが、海外の主要国と比較すれば海外事業の割合は少なく、今後はODAに頼らない海外事業の展開が必要である。そのためには、グローバルに活躍する日本の土木技術者も必要である。それでは、土木分野の研究・研究者はどうであろうか。
土木研究者においても、ODAを主体に、海外に赴いて現地の大学での研究指導、国費留学生を日本の大学で受け入れての研究指導を行ってきた。研究指導の多くは英語で行われ、研究成果も英語で公表されてきたが、多くは日本国内での公表であった。日本における問題である日本人学生が博士課程に進学しないという点を、海外からの優秀な留学生が博士課程に進学することにより解決してきたのである。優れた成果が出た場合、英語の論文でも国内の一流ジャーナルに投稿するのが普通で、土木学会賞のような評価を得ることが多くの研究者の目標であった。国内の一流ジャーナルの論文の質が海外のジャーナルより高いと見なされていたという点もその背景にあったと考えられる。

写真1 土木学会が企画する若手研究者のワークショップ
この状況は21世紀に入り徐々に変化してきた。インパクトファクターで格付けされるジャーナルに掲載されることが、土木研究においても目標になるようになったのである。土木分野において世界の一流と位置付けられる海外の国際ジャーナルへ、日本からも投稿が行われるようにもなった。そのため、国内のジャーナルの中には、国際ジャーナルの基準を満たしインパクトファクターが付与される、世界で認知されるジャーナルとなったものもある。
21世紀に入って20年以上がたった現在の状況はどうであろうか。データとして持ち合わせているのは筆者の専門分野(コンクリート工学)のものでしかないが、一流の国際ジャーナルへの日本からの投稿数は1から2%程度であり、全科学分野の日本からの投稿が4%程度である点と比較して少ない。筆者が以前勤務していた大学での経験ではあるが、土木分野の教員の全刊行論文に占める国際ジャーナル論文数の割合は、他の工学分野と比較しても明らかに低かった。
土木分野において国際ジャーナル論文数が少ないのは、他の自然科学分野と比較して社会貢献の重要性が大きいことがその理由の一つと考えられる。つまり、土木分野の研究にはローカルな課題への対応が求められているのである。しかし、それと共に土木はグローバルな課題への対応も求められている。SDGsへの土木の貢献が大きいのは社会が認めていることである。幸いにして研究水準がいまだに高い日本の土木は、グローバルな課題に対して、特にこれからもインフラを整備していく開発途上国での課題に対して、基礎的な研究も含め長期的に貢献していくことが期待されていると考える。
土木学会としては、現在、土木工学における学術研究活動の国際化ビジョン検討小委員会(長井宏平委員長)を設置し、若い研究者が分野を超えて集い、日本の土木研究の世界における位置付けを確認し、グローバルにどのように貢献していけるかを議論している。議論の成果が期待される。今後も、グローバルな研究者が育つための支援を、土木学会として行っていく。
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会