2024年8月号 新会長インタビュー


互いの交流で仕事の世界を広げる活動の場の風景を、もっと自由に


第112代 土木学会会長
佐々木 葉
[聞き手]堀田 昌英  土木学会誌編集委員長


委員会活動での経験から人としての多様性に着目

―ご就任、おめでとうございます。会長としてどんなことに取り組んでいきたいとお考えですか。まずは抱負をお聞かせください。
佐々木―やはり、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進は外せません。土木学会初の女性会長として、まず、同じ女性の土木技術者、研究者、学生からは、共感や将来への期待が寄せられていると思います。さらに土木学会が多様性を重んじる組織であることを社会に向けて強く印象付けることにもつながります。それらの期待に応えられるように、D&Iの推進は確実に取り組んでいきたいと考えています。
ただ多様性を重んじるとは、女性や外国人といった属性の違いに目を向けることだけではないはずです。土木学会の会員一人一人の人間としての多様性を大切にしたい。
土木学会って、専門性はもちろん、人間としても実にさまざまな力、経験を持った会員で構成されています。その多様性を発揮することが、学会の強みになると考えています。
―会員が専門性だけでなく人間としても多様な力を持っているというのは、学会の活動を通して実感されてきたことなんですか。
佐々木―そうですね。特に学会誌編集委員会とD&I推進委員会での経験で、会員の人としての多様性を感じると同時に、その重要性を強く認識しました。専門領域の異なる会員とも出会い、多くのことを教えていただきました。
―会員が多様性を発揮するというのは、どんなイメージですか。
佐々木―会長就任に当たって立ち上げた「土木学会の風景を描くプロジェクト」では、会員一人一人が学会のいろいろな機会で交流し、各自が持つ知・経験・情熱に触れ、互いに関わり合うことで土木の仕事の世界を広げていく、そんな活動の場の風景が、自由で、慣例に捉われないものとなることを目指しています。
歴代の会長は皆さん、ご自身の専門領域と重なるテーマに活動の重点を置いてきたように思います。私自身は何をやってきたかといえば、もともと建築学科の出身ですし、土木の世界に踏み込んでからも景観デザインという土木の周縁のような領域で活動してきました。土木学会の中で会長として景観デザインを推していくことも大切ですが、それよりも、会員一人一人の可能性に目を向けようと考えました。

[日 時]
2024 年3 月8 日(金)
土木学会にて

自由な交流がもたらす4万人規模の波及効果

佐々木―学会には約4万人もの会員がいます。先ほど申し上げたように、会員一人一人が自由に交流し、土木の仕事の世界を広げていくことになれば、その波及効果はとても大きい。まず学会内での交流を促していきたいと思っています。
―そうですね。ところで、先ほどから登場する「土木の仕事の世界を広げていく」というのは、どういうことを想定されているのですか。
佐々木―土木の仕事とはインフラ をつくる仕事であることは間違いありませんが、そのインフラには、道路、橋梁(きょうりょう)、ダムなど、すぐ思い浮かぶような大規模なものばかりでなく、風土と文化を尊重したもっと小規模なものまで含まれている、と考えています。会員のまなざしをそういうものにも向けていきたい。
道路や堤防などは確かにインフラとして分かりやすい。それ自体が目に見えるし、整備する必要性も言語化しやすい。しかし、その存在意義を伝えづらいインフラや、さりげないけれど、実は大きなチャレンジだった仕事もあるはずです。そういった見過ごしてしまいそうなインフラの仕事に支えられて、日常の風景がある。私たちの暮らしは人々が長い時間かけて作り上げてきたインフラ、そしてそれを使いこなす人々が支えている。それが心和む風景に現れていると思うのです。
今や誰もが「インフラ」という言葉を口にします。すてきなパン屋やカフェまでもが、「まちのインフラだよね」と言われる時代です。だからこそ、土木のインフラが地域の中で人々のどのような活動の可能性を支えているのか、改めて考えたい、と思っています。
決してこれまでのインフラ観を覆そうという訳ではありません。ただ、例えば今の30代とベテラン世代とでは歩んできた環境が違う。インフラ観も自(おの)ずと異なります。仕事に対する考え方や進め方にしても、若い世代が内心変えたいと考えている点はいろいろあると思いますし、そこにやりがいを感じる人もいます。私もすでにベテラン世代ですが、違う経験を持ち違う環境にいる人からの刺激が、自分の価値観を改めて知るよい機会になっています。
―皆さん、そういう新しい会長への期待は大きいと思いますよ。
佐々木―多くの方がそうおっしゃってくださるのですが、期待って具体的に何でしょうか。
―組織内ではつい、その場の空気を読んでしまい、言いたいことを飲み込んでしまいがちです。しかし、交流を深め、対話を重ねていけば、そういう気持ちから解放されるのではないか、という期待ですね。
佐々木―なるほど。立場としての発言ももちろん大切ですが、表と裏というか、「ここまでは言える」と「ここからは言えない」の境界線を学会の場では、今よりもう一歩二歩と、表側に移動させたいですね。そんな対話ができる場の風景は、今までとやはり、少し違ってくるのではないかな、と。
―会員一人一人の自由な交流が促されることを願っています。本日はありがとうございました。
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会